禅とは何か:その歴史と実践、心の平安への道
禅とは何か?それは仏教に基づくシンプルな教えであり、心を静め、平安を得るための実践です。
この記事では、禅の基本的な意味や歴史、実際の取り組み方を初心者にもわかりやすく紹介します。
禅を通じて、忙しい現代生活に心の余裕をもたらしてみませんか?
禅とは何?その基本的な意味と目的
禅は、仏教の教えのひとつであり、心を整え、物事の本質を見つめるための実践を指します。
その目的は、静かな心をもち、煩悩や執着から自由になること。そして結果として、悟りと呼ばれる境地に至ることを目指します。
禅という言葉は、サンスクリット語の「ディヤーナ」に由来します。
ディヤーナは、もともとインドの古代思想で瞑想や精神統一を意味し、当時は宇宙や神々との一体感を得るための修行でした。
これを釈迦が再構築し、「煩悩の解消と悟り」を目指す修行法として仏教に取り入れました。
仏教のディヤーナ(禅)は、「今この瞬間」に意識を集中し、心を落ち着けることで、物事の本質を見つめ直す手段として発展しました。
この実践は、難解な経典の解釈に頼らず、日常生活の中で直感的に行える方法でもあります。
現代では、禅はストレス軽減や集中力向上の手段としても注目されています。
その本質は「日常の中で自己を見つめ直し、心の平安を得ること」にあります。
どんな瞬間も「今ここ」に意識を向けることで、忙しい現代人にも心のゆとりをもたらすでしょう。
禅の歴史:インドから中国、日本へと続く流れ
禅とは何かを深く理解するには、その歴史を知ることが欠かせません。
禅はインドの仏教から始まり、中国を経て日本に伝わりました。それぞれの地で独自の発展を遂げ、今も多くの人に影響を与えています。
ここでは、その流れを追ってみましょう。
インド:瞑想の手段から悟りの修行法へ
インドで瞑想の手段として生まれたディヤーナ(禅)は、仏教成立以前には宇宙や神々との合一を目指す修行でした。
これを釈迦が再構築し、「煩悩を取り除き、悟りを得るための修行法」としました。
仏教初期では個人の解脱が目標でしたが、大乗仏教の成立後、菩薩として他者を救う修行法としても位置づけられるようになりました。
このようにディヤーナは仏教の実践の中心として発展しました。
中国:禅那から禅へ、直感的悟りの重視
仏教とともに中国に伝わったディヤーナ(サンスクリット語)は、「禅那(チャンナ、ぜんな)」と音訳され、のちに「禅」と呼ばれるようになりました。
この頃、中国仏教では難解な経典の解釈が修行の中心でしたが、禅は文字に頼らず、実践を重視し、日常生活や行動を通じて真理を見つける方法を提案しました。
こうした禅の思想は、道教や老荘思想の「自然との調和」や「簡素さ」と深く結びつき、『生活そのものが修行』という形で広がります。
6世紀頃、インドから中国に渡来した菩提達磨(ぼだいだるま)が、禅の精神を説き、「不立文字(ふりゅう もんじ)」や「直指人心(じきし にんしん)」を中心とした禅宗を確立しました。
文字に頼らない禅は識字率が低い庶民にも受け入れられ、座禅を中心とした修行法が体系化されました。
日本:精神修養と文化的美学としての発展
禅は鎌倉時代に日本に伝わり、臨済宗(栄西)や曹洞宗(道元)として広まりました。
臨済宗は武士たちの実践哲学として支持され、戦国時代の精神的支柱となりました。
一方、曹洞宗は「只管打坐(しかん たざ:ただ座ること)」を重視し、静かに心を整える実践法として庶民にも親しまれました。
また禅の精神は、建築、庭園、茶道、書道など多くの文化的表現に影響を与えました。
特に禅庭や茶道では「簡素さと調和」という禅の美学が明確に示されています。この影響は現代まで続き、心の平安を求める多くの人々に受け入れられています。
禅の実践方法:心を整えるためにできること
禅とは何かを実感するには、実践が重要です。
禅の中心的な実践方法である『座禅』は、心を落ち着けるとてもかんたんな手法です。
初心者でも取り組みやすい座禅の方法や呼吸法について紹介しますので、ぜひトライしてみてください。
1. 場所
静かで、自然な明るさがある場所を選びます。ご自分の部屋でもだいじょうぶです。
座布団か、敷物を用意します。椅子でも構いません。
服装はゆったりとしたものが適しています。
2. 座り方
結跏趺坐(けっかふざ): 両足を組む正式な座り方。
右足を左ももに、左足を右ももに乗せます。
からだをお尻と両膝の三点で支えるようにすると安定しますが、無理のないようにします。
半跏趺坐(はんかふざ): 片方の足だけを反対のももに乗せる座り方。
初心者にも取り組みやすい座り方です。
いずれかの足を反対側のももの下にさしこみ、もう片方の足を手でもちあげて反対のももに乗せます。
椅子座禅: 座布団や椅子を使い、足を組まずに座る。
椅子に浅く腰掛け、背筋を伸ばします。
どの座り方でもよいので、無理のないものにしましょう。
3. 姿勢
背筋を伸ばす:
背中は真っすぐに、肩の力を抜いてリラックスします。
頭は天井から糸で引っ張られているような感覚を持つとうまくいきます。
手の位置:
両手をお腹の前で組みます。
右手を左足の上に置きます。その右手の上に左手を重ね、親指の先を軽く触れあわせ、だ円を作ります(法界定印:ほっかい じょういん)。手は腹から少し離します。
目線:
目を閉じず、軽く開けて1~2メートル先の地面をぼんやりと見ます(半眼)。
物が視界に入って気になったりするなら、目を閉じても良いです。
4. 呼吸法
呼吸は腹式呼吸を基本とします。
鼻から3~5秒かけてゆっくり息を吸い、丹田(下腹部)を意識して息を送り込みます。
5~7秒かけて息を口からゆっくり吐き出します。
吸う、吐くのリズムに意識を集中させます。
自然なリズムで呼吸を続け、無理に制御しないことが大切です。
5. 心を整える
呼吸に意識を向けることで、雑念を減らします。
「今ここ」に集中するよう努め、心がさまよっても呼吸に意識を戻します。
姿勢や手足に違和感を感じた場合は、そのつど微調整してください。
6. 時間
初心者は5~10分程度から始めます。
慣れてきたら15~20分、さらに30分以上にのばしても良いです。
7. 終わり
足を組んでいた場合は慎重に足をとき、血流を戻すように軽く足首や膝をマッサージします。
静かに呼吸を整え、姿勢を保ちながらゆっくりと目を開けます。
禅がもたらす効果とその魅力
禅とは何かを学び、実践を続けることで得られる効果は数多くあります。
ここでは、座禅などで取り組むことのできる「瞑想」の効果について、代表的なものを四つ紹介します。
1. 心が落ち着き、共感力があがります
瞑想には、脳を変える力があることが科学的に示されています。
ハーバード大学のブリッタ・K・ホルツェル博士、サラ・ラザール博士ら※1の研究では、8週間の瞑想トレーニングを受けた被験者の脳に変化が見られました。特に、偏桃体の活動が減少したことが報告されています。
偏桃体は「恐怖」や「不安」に関連する感情をつくり出します。
たとえば、犬にかまれた経験から「犬を見るだけで怖い」と感じるのは偏桃体の働きです。でも、この活動が過剰になるとストレスを引き起こす原因にもなります。
瞑想によって偏桃体の活動が緩和されることで、ストレスが減り、幸福感が高まることが期待されています。
また、Shamatha Projecの研究※2では、瞑想がストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を抑える可能性があることが確認されています。
呼吸を整えて心を落ち着けることで、自律神経にポジティブな変化をもたらすのです。
2. 集中力があがり、記憶力が高まります
瞑想を続けることで、脳の働きが変化し、集中力や記憶力が向上することが分かっています。
同じくブリッタ・K・ホルツェル博士らの研究では、記憶を司る脳の部位である「海馬」の灰白質密度が増加したと報告されています。
さらに、委縮していた部分が回復する可能性も示唆されています。
ハーバード大学のニュース記事※3,4では、『今この瞬間』に集中することで注意力に関与する前帯状皮質の活動が活発になる可能性について言及されています。
これらの科学的な証拠と研究は、瞑想が脳の健康をサポートし、学習や仕事の効率を高めるツールであることを証明しつつあります。
3. 自己の内面を見つめ直し、世の中に対する行動が変わります
瞑想は、自己認識を高める効果があるとされています。
また、瞑想を実践する人は自分の感情や思考を客観的に理解しやすくなることが示されています※5。
これにより、冷静な判断ができるようになり、人間関係や日常生活での行動が変わります。
禅では、直感的に真理をつかむ「直指人心」が重視されます。積極的に答えを探すよりも、心を落ち着けて内面を見つめることで新しい発見が得られるのです。
また、座禅や掃除といった日常的な所作を丁寧に行うことで、自己統制と自発性のバランスが身につきます。
これにより、世の中でより適切に判断し、行動できるようになるでしょう。
4. 体もリラックスします
呼吸が深くなることで副交感神経が活性化し、心拍や筋肉の緊張が緩和されます。
瞑想は、リラックス反応を引き起こし、心拍数や血圧を下げる効果があることがわかっています。
American Heart Association※6の研究では、瞑想が血圧を低下させ、心血管リスクを軽減する可能性が報告されています。
呼吸を深く行うことで副交感神経が活性化し、心拍が落ち着き、筋肉の緊張が緩和されます。
最初は慣れないかもしれませんが、継続することで自然にリラックス状態を作れるようになるでしょう。
以上四つ、これだけでも素晴らしい効果がありますね。
禅の教えを現代に活かすには?
禅とは何かを知ることは、現代生活にも大きなヒントを与えてくれます。
忙しい日々の中で、禅の考え方や実践を取り入れることで、心の余裕や豊かな時間を得ることができます。
先ほどは座禅でおこなう瞑想のやり方をご紹介しましたが、禅を実践する方法はまだたくさんあります。
禅を現代生活に活かす具体的な方法について、いくつか考えてみましょう。
1. 毎日のルーティンを「禅的」におこなう
たとえば毎日靴を磨くとき、それに集中します。
一杯のコーヒーに集中してもいいでしょう。
会社へ行くとき、あるいは社内で数分間だけ歩く時に、呼吸と歩みを協調させます。四歩で吐いて二歩で吸うなど、自分にあった単調なリズムをつかみ、呼吸はなるべく深くし、それを保って歩いてみます。
危なくないよう、視野は広く保ってください。
このようにすれば、忙しいウィークデイでも気軽に取り組むことができます。
禅の精神は「日常生活の中で無駄を削ぎ落とし、本質に集中すること」にあります。
無理に特別なことを始める必要はなく、日々の生活の中で「今この瞬間」に意識を集中させるだけで良いのです。
2. 決めた行動に心をあわせる
例えばあたたかいスープやお茶を飲むとき、手にその温かさを感じながらじっくり味わいます。これを日常の中で習慣化し、それをしている時に他の事は考えません。
片づけは「いらない物を手放す修行」と決めて取り組みます。惑う気持ちも捨て去るように、物を減らしていきます。
寝る前などに深い腹式呼吸を取り入れるのも良いですし、気づいたタイミングでゆっくり深呼吸するだけでも良いでしょう。
3. 頑張りたい直前に禅を取り入れることもできます
たとえば学生さんなら、勉強の前に三回深呼吸してみてください。
そこで雑念が湧いたら5分だけ目を閉じて呼吸に集中します。
こうすることで、勉強の効率がアップします。
4. 意識して休む
たとえば、スマホを休ませる時間をつくります。
SNSは一時間だけやると決め、その間はどのアプリを見るかだけ決め、注意散漫な時間が続かないようにします。
スマホを使う前と後には、手から離して置き、目を閉じて静かさを感じてみましょう。
新聞やテレビに関しても同じです。
ずっと見続けるのではなく、番組が終われば消す、読み終われば意識して机に新聞を置く、そして五分、目を閉じて情報から離れてみましょう。
5. 専門の場所をたずねる
禅画、禅庭などを鑑賞に行ってみましょう。
また禅寺に参拝し、座禅体験会などに参加してみるのも良いでしょう。
禅とは何か・まとめ
禅は、仏教の教えの一つであり、心を整え、自己に気づき、物事の本質を見つめるための練習をさします。
その本質は、日常の中の何気ない行動や瞬間に「どのように意識を向けるか」という点にあります。
特別な何かを成しとげることではなく、今この瞬間を静かに見つめ、心を落ち着けることが目的です。
その過程で、結果として「悟り」と呼ばれる境地にいたる可能性があります。
禅は難しい教義やとくべつな環境を必要としません。
忙しい毎日の中でも、今この場所で呼吸に集中したり小さな掃除を丁寧に行ったりすることが、いつでも私たちの心を落ち着け、平安を得るきっかけとなるでしょう。
参考資料
※1 Britta K Hölzel 1, James Carmody, Mark Vangel, et al., Mindfulness practice leads to increases in regional brain gray matter density,Psychiatry Research: Neuroimaging, 2011,DOI: 10.1016/j.pscychresns.2010.08.006
※2 Tonya L. Jacobs, Clifford D. Saron ,et al., Self-Reported Mindfulness and Cortisol During a Shamatha Meditation Retreat,Health Psychol, 32(10),2013, Shamatha Project,DOI: 10.1037/a0031362
※3,4 “Eight weeks to a better brain “,”Mindfulness meditation study shows changes in neural responses”, Harvard Gazette
※5 Sara W. Lazar, et al., Meditation experience is associated with increased cortical thickness, Neuro Report,16(7), 2005, DOI: 10.1097/01.wnr.0000186598.66243.19
※6 Levine GN, Lange RA, Bairey-Merz CN, et al., Meditation and Cardiovascular Risk Reduction: A Scientific Statement From the American Heart Association, Journal of the American Heart Association,6(10),2017, https://doi.org/10.1161/JAHA.117.002218
〇 恩田 彰,禅の悟りの心理と創造性,日本トランスパーソナル心理学/精神医学会誌「トランスパーソナル心理学/精神医学」9(1),2009, https://doi.org/10.32218/transpersonal.9.1_1
※当ブログは、管理人が自身の調査と個人的な思考を交えて書いております。記事の内容に誤りや不適切な表現が含まれている場合もございますが、その際はご容赦いただけますと幸いです。また、健康に関する情報については、この記事を過信せず、必ず医師や専門家の診断・治療を受けてください。当ブログはあらゆる信仰や生き方を尊重し、すべての方の心に寄り添うことを大切にしています。どなたも軽んじたり排除したりする意図はありません。