神社の美しい砂利
神社を訪れたとき、目に飛び込んでくる鮮やかな朱色の鳥居。
その先の参道に映える、豊かな緑。
たった今まで町の喧噪の中にいたはずなのに、ご神域に入ったとたん、なぜこんなにも空気が変わるのでしょうか。
神社はただお社があるだけではありません。
神社は、その空間のすべてを、神様の領域として仕切ってあるのです。
私たちは神社へ詣でる時、その特別な空間に包み込まれます。
その神聖な空間づくりに欠かせないのが、実は足元の砂利。
この記事では、神社においてとても大切な役割を果たしている、砂利についてお話します。
神社の砂利は、清らかさの象徴
砂利は、古代から「清め」の象徴とされてきました。
神道における根本的な概念の一つは「清浄」です。
神道では、神聖な場所はいつも清らかにしておくことが、とても重要です。
ですから神社では、神が降り立つご神域を、土や雑草が汚してしまわないようにと、「清め」の手段として砂利が敷き詰められたのです。
また、土を砂利で覆うことで、ただ汚れを隠すだけではなく、地面そのものが浄化されると信じられてきました。
神社に敷き詰められた砂利は、うわべばかりを覆い隠しているのではなく、根本から穢れをはらう禊の力を秘めているので、参拝者にとってこの上なく清らかに感じるのです。
ご神域も人々も守る、美しい砂利のちから
神社の砂利は、ただ清らかさを象徴するだけではありません。
高温多湿な日本では、虫の大量発生や伝染病は、つねに人々の懸念でした。
じっとりと暑い夏など、気をつけて清潔にしていなければ、皮膚を健やかに保つことさえ困難です。
このような風土で生きてきた日本人にとって、砂利は次のような利点がありました。
砂利の実用的な利点
1.雑草の抑制による虫の発生の防止
雑草が生い茂ると、その葉や茎は虫が隠れたり、繁殖する場所となります。
虫の中には、感染症をはこぶ蚊やダニ、ゴキブリなどの害虫もいます。
増えてしまったら衛生環境がとても悪くなりますから、なるべく発生をおさえ、繁殖させないことが大切です。
砂利敷きは、むきだしのままの地面より、ずっと雑草の発生が抑えられますから、これらの虫の隠れ場所や繁殖環境がなくなり、害虫対策としてすぐれているのです。
2.砂利は水はけが良く、湿気をコントロールできる
砂利は水はけが良いため、雨が降った後でも地面が乾きやすく、湿気がこもりにくくなります。
湿気の少ない地面では、雑草も生えづらくなりますから、これも害虫対策になります。
蚊、ダニのほか、白アリといった虫は高湿度の環境を好みますから、砂利によって湿気をコントロールすることは、神社のお社はもちろん、近くの木造の建物を守ることにもつながるのです。
砂利は、雨水が泥をふくんで建物に跳ね返り、汚してしまうのも防ぎます。
湿気やよごれが減少すれば、菌やカビの発生も抑制されます。
日本はいろいろなものがすぐカビてしまいますよね。
梅雨時になると胞子で咳き込んだり、楽しみにしていたお饅頭がだめになってしまったり、お風呂のおそうじも手がかかるし、カビというものは実にやっかいで、憂うつにさせられます。
砂利の湿気コントロール効果は、建物を守り、空気感染や食物を通じて広がる感染症の予防にも役立ちました。
3.土の露出を防ぐことによる衛生的な効果
砂利を敷いて土が露出しなくなれば、土壌にいるバクテリアや病原菌の拡散が抑えられるという利点もあります。
泥は人が歩く際に衣服や肌に付着しやすく、この泥汚れが病原菌の媒介となる事があります。
病原菌だけではありません。たとえば動物の排泄物、ひとの出したゴミなども、その成分は泥に吸収されます。
砂利は、泥や汚れが飛散するのを防ぐので、神社を清潔に保ち、参拝者もその恩恵を受けることができるのです。
泥の上に草がしげる地面にくらべ、一面の砂利敷きでは、そこになにか異物があればひどく目立ちますから、すぐに片づけられることも大きいでしょう。
4.砂利の防火効果
忘れてはいけないのが、砂利の防火効果です。
「地震、かみなり、火事、おやじ」
木造家屋がおおい日本では、むかしから火災は人々の心配のたねでした。
火は、個人の財産を奪うだけでなく、往々にして町全体をのみこみました。
神社のご神域に難燃性の砂利をいちめん敷きつめてあるのは、神聖な神のお社を火からまもる意味もあります。
でも、守るものは神のお社だけではありません。
神社の砂利の火よけ効果は、その町ぜんたいの、延焼を食い止めるためにも発揮されるのです。
神社の砂利は、結界そのもの
ご神域に近づくと、ぐっと涼やかな気配を感じます。
朱、白などのきれいな鳥居が見えますし、周りの植物は光を透かして緑に輝きます。
かがやく緑に混在して深い影があり、物理的には限られたはずのご神域に、こちらからはけっして踏み込めない無限の広がりも感じます。
涼やかな空気を味わい、視覚で別世界に近づいたことを知った参拝者は、耳もとにもメッセージをいただきます。
じゃりっ、じゃりっという、音です。
砂利が敷かれていると、雑音が吸収されやすくなりますから、喧噪は消えます。
神社のすぐ外の自動車道の音が、不思議とあまり気にならないのは、木立などの他、砂利の吸音効果もあります。
境内全体は静寂で、穏やかな空間になり、そのなかに砂利がこすれる音だけがします。
それは心地よい一定のリズムです。
砂利の上を歩くと、足元は逆に少し不安定です。
沈み込んでおぼつかなく、人は姿勢を保とうとするでしょう。慣れない砂利の上を歩く時は、無意識に、集中力が高まりませんか?
ですが、それとまた裏腹に、足の触感には心地良さをいただきます。
今では靴底が丈夫な履物が主流ですが、最近まで日本人はもっと薄い履物をはいていました。薄いはきものを通して足の裏に、心地よい刺激を感じます。
このように神社は静寂のなかで、人の五感、そして心理に、安定と緊張をささやかに織り交ぜて語りかけ、わたしたちを特別な世界に包みこみます。
敷き詰められた美しい砂利は、神社の結界においてとても重要なものなのです。
神様の側から見た砂利
「清浄」は、神道における根本的な概念の一つと述べました。
もう一つ、神道にはたいせつな要素があります。
それは「音」です。
「神聴(かんちょう)」という言葉があります。これは、神様が聞き取るとされる音のことです。
「音」によって神様が人々の行動や祈りを感じ取り、対応するという信仰が、神道の根底にはあります。
祭礼で鈴や太鼓が用いられたり、あるいは参拝で柏手をうったりするのは、みなこの神聴を意識した行動です。
参道で参拝者が砂利を踏めば、その参拝者は清められ、じゃりっ、じゃりっという音は神様にも届くとされます。
神社で参拝者が大声で話したりせず、携帯電話を切ったりするのは、神道で「音」がとても重要だからです。
静寂のなかに響く砂利の音で、神聖な場へのふさわしい態度が示され、神様がその場に降りていらっしゃる、またはお応えをいただけると考えるのです。
こちらから神様に届くもの、砂利の音にはそのような意味があります。
神社の参道、敷石と砂利
多くの神社の参道には、砂利だけでなく敷石があります。石もまた神聖なものですが、「参道としての整備」という意味合いが強く、砂利のような禊(みそぎ)や、神聴の役割は明確ではありません。
ですがそこを通る際には、同じように敷石の上も神聖な場所であることを忘れないで、参道の中央はふさがないようにし、参道のやや端を、敬意をもって歩きます。
敷石の両側に砂利がある場合は、そこを歩くことは構いません。
あえて敷石から外れて歩く場合は、砂利を不必要に乱したりしないよう気を付け、神社に決まりがあれば、必ず従うようにします。
ご神域を乱さず、なるべく謙虚にあろうとするならば、参拝者があるくように整備された敷石の上から、むやみに外れないようにするのは、それも敬意のある行動です。
お子さんでは、何も知らずに砂利をひきずって歩いたり、蹴とばしたりしてしまいがちです。
いきなり叱って神社がきらいになったりしないように、日本人は神様とどうやって交流を図るものなのか、優しくおしえてあげられるといいですね。
神社の砂利、美しさの秘訣
庭に砂利をまいたことがある人は、意外にはやく砂利がよごれてしまったり、コケや雑草が生えてくるのだと知っています。
では、神社の砂利はなぜいつもあのように美しいのでしょうか。
家庭とは違ういくつかの理由を挙げます。
特別な施工
DIYが人気の現代では、家庭の砂利敷きは使う材料も、施工の技術もまちまちです。
一方、神社の砂利敷きには、雑草の発生を防ぐための施工技術が、職人の手でしっかりと用いられています。
1.防草シート
砂利を敷く前に地面に防草シートを敷くことで、雑草が生えてこないようにする技術です。防草シートは、水は通しますが光を遮断するため、雑草の根が成長することを防ぎます。
2.砂利の厚み
砂利は厚く敷くことで、雑草の発芽を抑える効果が強まります。
一般家庭では薄めに砂利を敷くことが多いのですが、神社では雑草が生えにくくするために、砂利の層を厚めに敷くことがよくあります。
3.神社特有の砂利の選定
神社で使われる砂利は、通常、清浄さを保つために選ばれた特別な種類のものです。
例えば、白い玉砂利などは光を反射しやすく、雑草が根を張りにくい環境を作ります。
角ばっている砂利は、まるい玉砂利のように光を反射しませんが、踏み固められることで隙間が少なくなり、これも雑草が生えにくくなる効果があるのです。
地元の石にこだわって使われる場合もありますし、費用などの都合もありますが、いずれにしても神社の砂利はこだわって選定されていますから、耐久性もよく、雑草をおさえる効果も強いのです。
特別な手入れ
1.砂利の入れ替え・補充
神社では、年に一度や数年に一度、砂利を入れ替えたり補充したりすることがよくあります。
長期間使用された砂利は土に埋もれたりして、見た目に減ってしまいます。
またコケが生えたり、汚れが溜まったりもします。
このような場合、専門の業者のもとで低圧の水流にかけ、手作業での洗浄を行い、丁寧に汚れを除去してもらいます。
砂利の表面が美しく見えるように、新しい砂利を追加することも行われています。
2.日々欠かさない手入れ
これは一般家庭でも、かなりしっかりしている場合があるでしょう。
ただ神社では神社の神聖さを守るために、日々手入れをして美しさを保つことは、「欠かせないもの」と考えます。
また、そのための人手もあります。
多くの神社では、神職や氏子、ボランティアが定期的に境内の手入れを行っています。これには、毎日の掃除や落ち葉の除去、雑草取りなどが含まれます。
また大きな神社では、清掃のための専任スタッフがいる場合もあります。
神社の維持管理は、神聖な行為とされ、参拝者や地域の人々が奉仕活動の一環として定期的に掃除を行うこともあります。
特別な意識
日本の神社の砂利がいつも美しい最大の秘訣は、何といっても神社を神聖な空間として、みんなが意識していることです。
神職、氏子、地域の人たち、メンテナンスに関わる人達、施工業者、毎日の参拝者、みんなが神社の清浄をたいせつにするので、砂利をふくめて空間そのものが、常にうつくしいのです。
神社の砂利のまとめ
砂利は雑草、湿気、火災対策などに有効なだけでなく、神道では「清め」の象徴として扱われます。
また砂利敷きを美しく保つのには、その場所を敬う人々の工夫と、日々の努力がありました。
このようにして神社の砂利は見事な結界を作り出し、参拝者をすがすがしい空気で包んでくれるのです。
つぎのご参拝では、足元の砂利にも注目してみてはいかがでしょうか。
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