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松竹梅のランクが逆な件ー梅の魅力を再発見!

zaruza

「松竹梅」という言葉、
真っ先に思い浮かぶのはランク付けではありませんか?

あるいはどれが高くてどれが安いのかという「値段」のこと。

多くの場合「松が最上、竹が中、梅が下」とされます。

でも、ちょっと待ってください。

なぜ梅が「安物」扱いなのでしょうか?
香り高く美しく、あんなに良い実※1を結ぶ梅が、なぜ一番下?

紅枝垂れ梅のピンク色の花。満開でボリューム満点。

結論から言うと、こんなランクに意味はありません。
ゴロがいいから「松→竹→梅(しょうちくばい)」なのです。

だって、順番をかえて口に出してごらんなさい。

「ちくしょうばい」って、オカシイでしょう。
それとも「ばいちくしょう…?」

松も竹も梅もそれぞれに魅力があり、そこにランクを付けたのは人間の都合。
だから「松竹梅」でもいいし、「梅竹松」(うめ・たけ・まつ)でもいい。

この記事では、「松竹梅」という言葉の意味を再考し、とくに「梅」の素晴らしさにスポットを当ててみます。

さあ、梅の魅力をもう一度見直してみませんか?


残念、梅は来るのが遅かった

実は、梅が「松竹梅」の順番で損をしているのは、日本に来るのが遅かったからです。

松と竹は古くから日本にありました。

松 ― 神を迎える木

松は樹齢が長いことで有名です。また常緑であることから「長寿・生命力の象徴」とされ、神の依り代としても活躍していました。

樹齢400年の松
小田原城の巨松、樹齢は約400年


そもそも「松」という名は「神を待つ」から来ていると言われ、神聖な木として日本各地で尊ばれました。

マツ科の木々の常緑の性質を特別視するのは日本だけでなく、例えばクリスマスでは永遠の象徴としてもみの木が主役になり、松ぼっくりが添えられています。

竹 ― 霊力と実用の木

白梅と輝く竹
加工されていない本物の竹の輝き

竹は、神話では神武天皇がタケノコを武器として投げたという伝承が残るほど、力強さの象徴でした。

また、「竹取物語」では、竹の空洞から神秘の力を持つかぐや姫が生まれるなど、不思議な形状のなかに生命力・霊力を宿す植物としても考えられていました。

さらに、竹は実用面でも優れており、建築材・道具・楽器など、暮らしのあらゆる場面で欠かせない重要な植物でした。

遅れてやってきた梅

竹が笑って神を松(待つ)。赤は梅ではなく南天。

そんな日本に、中国から梅が伝わったのは奈良時代(8世紀)ごろ。
その頃にはすでに松と竹は日本文化の中で不動の地位を獲得していましたから、完全に出遅れたのです。

梅の花の可憐さ、香りの良さ、そして調味料や保存食として利用できる実の性質は、すぐに人々の人気を集めましたが、松や竹ほど深い意味を感じ取られないまま日本に浸透しました。

そして「松竹梅」の植物の組み合わせと言葉は、あちこちで重宝され始めます。

商品のランクを「上・中・下」とは言いにくいから、「まつ・たけ・うめ」で婉曲に呼んだりするようにもなりました。

一方、梅を生んだ中国では、松・竹・梅を「歳寒三友(さいかん さんゆう)」 と呼び、三者に上下をつけていません。


松竹梅のはじめ:中国の歳寒三友

中国君子のイメージ

では「歳寒三友(さいかん さんゆう・スイハン サンヨウ)」についてお話しましょう。

これは、寒い冬でも枯れることなく生き抜く松・竹・梅をたたえた表現です。「歳寒」は「寒い時期」、「三友」は「三つの友だち」という意味で、どちらも論語に由来するとされています。

しかし、中国でも最初から松・竹・梅が特別な意味を持っていたわけではありません。

中国での松と竹 ― 早くから尊ばれた二つの植物

もともと、松・竹・梅はそれぞれ単独で絵の題材にされていました。当初は「松竹梅」という呼び方もなかったのです。

ただ、中国では昔から、自然の中に人の生き方を重ねる考え方がありました。植物や風景が持つ特徴を、人間の理想と結びつけてシンボル化する文化です。

松 :変わらぬ強さの象徴

崖にせりたつ松の木
このような厳しい状況に立たされ、人も生きられるだろうか

松を見た中国の人々は、こう感じました。

「この木は寒い冬でも青々としている。なんと強く稀有な存在なのだろう。険しい崖に立つ姿も堂々としていて、まるで忍耐強い君子のようだ!」

こうして、松は厳しい環境に耐え抜く強さや、不変の精神を持つ木として尊ばれるようになりました。

竹 :清らかでしなやかな風流の象徴

明るいグリーンの光に満ちた竹林
手入れされた竹林はどこまでも明るい

一方、竹林に入った人々は、その清々しさに心を打たれます。

「まっすぐでしなやか、風が吹けば心地よい音を奏でる。これはまさに風流というものではないか。竹こそ、俗世を離れた仙人のような存在だ!」

竹は、折れずにしなやかにしのぐ姿勢から「高潔さ」「品格」「風流」 の象徴とされ、古くから尊ばれるようになりました。

梅 : 後から見出された「孤高の強さ」

紅梅に雪が積もっている

こうして、中国でも松と竹は早くから特別な意味を持つようになりましたが、梅は最初から君子の花とされたわけではありません。

梅は当初、春最初に咲いてすぐに散ることから、「可憐だけど儚い花」と見られていました。
しかし、時が経つにつれ、人々は梅が厳寒の中で花開くことに気づきます。

冬枯れた世界で、百花にさきがけて香り始める梅の姿に、中国の人々はこう感じるようになります。

「この花は寒さに耐え、誰よりも早く春の訪れを告げる。孤高でありながら気高く、まるで逆境にも屈しない志ある人のようではないか!」

ここに、梅の新たな価値が生まれました。

百花の魁(ひゃっかの さきがけ)ー「逆境の末に咲く花」としての梅の確立

みぞれに耐えて咲く白梅

中国は広大な国土を持ち、異なる民族や文化が共存する社会でした。時には、民の心を一つにすることが必要な場面もありました。そうした状況の中で、困難を乗り越える精神を象徴するものとして「梅」が再評価されたのです。

ただの美しい花、ただの儚い花として扱うのではなく、こう語られるようになります。

「見よ、風雪を凌ぎ、香り立つ気高い梅の姿を!」

こうして、梅は「寒さに耐え抜き、厳しい状況下で気高く咲く花」として尊ばれるようになりました。

また人びとが寒さに俯いている中に、ふと香りで春の到来を知らせてくる咲き始めの様子は、春の盛りに色を競い合う他の花々に比べ、いっそう特別に感じられたはずです。

やがて、松・竹と並ぶ形で「歳寒三友」として扱われるようになり、「冬の寒さ(困難)にも耐える三つの友」として、文学・哲学・芸術など、あらゆる中国文化の中で確固たる地位を築いたのです。

松竹梅だけじゃない!梅の活躍

実は、素晴らしいとされる植物の組み合わせは「歳寒三友」だけではありません。たとえば、こんな言い方もあります。

・歳寒四友:松・竹・梅・蘭
・四君子:梅・蘭・竹・菊
・五清:松・竹・梅・菊・石

竹とともに、梅はどの組み合わせにも入っています!
松や竹より後に徳性が見出されたとはいえ、梅がいかに特別視されているかがよくわかります。

また、梅にはうら若い美人のイメージもあります。

中国の映画で、女優が額に花のような模様をつけているのを見たことはありませんか?あれは「花鈿(かでん)」という唐代に流行した化粧で、由来は武帝の娘が眠っているとき、額に梅の花が落ちてくっついてしまったことからきています。※2

紅枝垂れ梅の丸い蕾
梅は蕾もかわいらしい

さらに、梅は舞踊や音楽の世界でも愛され続けてきました。中国には梅にちなんだ楽曲も多く、たとえば「梅花三弄(メイホア サンノン)」は十大古曲のひとつ。1600年以上前に生まれたにもかかわらず、今も笛や古筝で演奏される名曲です。


梅、日本でも人気

小田原城の松、梅

さて、本家の中国でもやや出遅れた梅でしたが、中国の文化と共に日本にやって来ると、美しい花の咲く木としてたちまち人気になりました。

桜は切られることに弱く、大木になるので庭に植える人はあまりいません。
庭に桜を植えると、日光を遮り他の植物を弱らせるばかりか、湿気を呼んで住む人の健康にも良くないのです。
これは野外で楽しむ花と言えます。

川沿いに咲き誇る桜並木

一方で梅は剪定することでより美しい花を咲かせ、実を結ぶという性質を持っています。

力強くも質素で、剛毅さを感じさせる幹、切り詰められた枝、そこにつく香り高い可憐な花。この樹形、花の位置、香る様子は座敷から楽しむのにもちょうどいいものです。
場所をとらずに鑑賞できる梅は庭木にぴったりで、全国で植えられるようになりました。

青空の下、庭園の松と桃色のしだれ梅
剪定され、敷地の限られた庭園に調和する梅の木

貴族たちは文学と共にやってきた梅を愛で、和歌に詠みました。

また、梅は陶磁器や絵画の図案としても中国から伝わり、その繊細な意匠が人々の目を引きました。こうした影響もあり、日本では梅の精神性よりも「美しさ」「めでたさ」が重視されるようになります。

美しい花は松や竹とともに「めでたいもの」とされ、「松竹梅」という組み合わせの中に入っていったのです。

めでたい松竹梅のモチーフ


現代の日本でも、梅は愛され続ける

そんな梅は、今や日本でもさまざまな形で人々の生活に根づいています。

庶民にとって最も身近なのは、やはり「梅干し」でしょう。平安時代には薬として珍重され、戦国時代には兵士の携行食として利用されるなど、日本の食文化に深く関わってきました。

さらに近年、梅は体臭に効くかもしれない※1,3と言われ、改めて健康効果が注目されています。 (梅の生の実を食べてはいけませんよ)

美しさだけでなく、身を助ける力まで持つ梅。
松竹梅のランクで最下位だから、いちばん劣ると考えるのはとんだ間違いなのです!


曽我梅林を訪ねて─梅の美しさを体感する

曽我梅林と刻まれた石

さて、机上で語るばかりでなく、実際に足を運んで梅を見に行ってみましたので、ご紹介します。

曽我の梅林は、神奈川県小田原市にある関東三大梅林のひとつです。
約35,000本もの梅が一斉に咲き誇り、白梅を中心に、紅梅やしだれ梅が美しいアクセントを添えています。

曽我梅林の白梅が並んでいる

この梅林は観賞用の庭園とは異なり、梅の実を収穫するための梅畑として管理されています。そのため、人の暮らしに密着した、自然な姿の梅の風景を楽しめるのが魅力です。

また、周囲には梅を丹精込めて育てている民家が多く、それぞれの庭で競うように咲く梅の姿が、さらに趣を添えています。

青空の下、すっと立つしだれ梅。満開でやさしい桃色。

毎年、梅の見頃に合わせて「曽我別所梅まつり」が開催され、期間中はさまざまな店が立ち並びます。普段は立ち入ることのできない梅畑の中に入り、間近で梅の花を楽しむことも可能です。

ただし、梅の満開時期はその年の気候によって異なるため、訪れる際は開花状況をチェックするとよいでしょう。

梅林では農作業が始まる時期もあるため、特に梅まつりなどで許可されている場合を除いては、畑の中へは立ち入らず、歩道や車道から観賞するように気をつけましょう。

梅の品種は、白梅が中心で「白加賀」や「十郎梅」が多く見られますが、「青軸」などの品種もあるので、探してみるのも楽しいかもしれません。

軸が緑色をした白梅

曽我梅林、アクセス

曽我梅林へは、JR御殿場線・下曽我駅(しもそが えき)から歩いて約15分。駅を降り立った瞬間、ほのかに梅の香りが漂い、訪れる人を迎えてくれます。

ブログ管理人はマスクをしていたため気づきませんでしたが、周囲の誰かが「いい香り」とつぶやくのを耳にしました。

こじんまりした下曽我駅舎。傍らに梅が咲いている。
駅舎の横に、梅が咲いている

梅林には特定の入場口がなく、駅から歩きながら「こっちかな?」と進んでいるうちに、いつの間にか梅の中へと迷い込むような感覚になります。

方向が不安な方は、曽我別所梅まつり観光協会のホームページから地図を印刷して持参すると安心です。

梅畑は広く、梅まつりの期間中は、普段入れない未舗装の場所にも立ち入ることができます。

歩きやすい靴で訪れるのがおすすめです。

植えられたばかりの梅の苗木。すでに枝ぶりを整えられている。
畑では、苗のうちから人の手で大切に育てられている

また、見晴らし台へ向かうと、眺望を楽しめるだけでなく、陽の当たり具合や地形の影響で、「満開を過ぎた花」「これから咲く花」など、さまざまな表情の梅を観察できます。

見晴らし台へ向かう道から、相模湾も見える
見晴らし台へ向かう道からは、箱根連山、相模湾まで見渡せる

梅林周辺の民家の庭にも、丹精込めて育てられた見事な梅の木があって、思わず足を止めて見入ってしまうほどです。ただし、個人のお宅の敷地内なので、写真撮影の際は配慮を忘れずにしましょう。

お土産

ふっくら、ジューシーな梅干しの写真

かつては東海道を行く人々の、旅の携行食として不可欠であった小田原の梅干しです。

地元の人の話では、近年では小田原産でない梅をつかうことも多いのだとか。

曽我梅林の梅の実で作られた梅干しを求めるなら、「十郎梅」と書かれているものを選ぶか、お店の人に確認すると確実です。

松竹梅のランクと梅のまとめ

青い空に映える、すっとした白い梅の花

松・竹・梅は、日本や中国で特別視される三つの植物の定番の組み合わせです。

中国では、これらは厳しい冬にも耐えることから「歳寒三友(さいかん さんゆう)」と呼ばれ、高い精神性を象徴するものとして、芸術や思想の中で広く取り上げられています。

一方、日本では、松や竹が古来より神聖視されてきたのに対し、梅はその美しい花姿が重視され、「精神性」という点ではそれほど強調されてきませんでした。

でも、よく知られている「松竹梅」のランク付けは、歳寒三友に由来し、単に語呂や響きの良さで並べられたものです。

決して「梅が松より劣る」という意味ではありません。
むしろ、梅は寒さに耐えていち早く花を咲かせ、春の訪れを告げる特別な存在なのです。

その美しさや香りを実感するには、実際に足を運んでみるのが一番です。

このところ、寒さも落ち着き、ようやくこたつから抜け出せる陽気が混じるようになってきました。

完全な春になってしまうと、梅は散ってしまいます。梅の志を知ることができるのは、人の心にまだ冬の名残りがある、今なのです。

さあ、曽我梅林やお近くの梅の名所へ観梅に出かけ、冬の終わりを告げる梅の素晴らしさを再確認しましょう!

参考資料と補足

韓 雯,日中「松竹梅」の比較研究ー梅のイメージを中心にー,創価大学日本語日本文学会,日本語日本文学 (21), 27-41

※1 梅の生の実には毒がある。絶対に生で食べてはいけない

※2 別説では、梅の花ではなく治療痕が美しく見えたのが由来とも言われる

※3 関根嘉香,梅澤郁夫,高崎市産梅加工製品摂取による加齢臭の低減,クリーンテクノロジー,34(4),70-73,2024

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ザルザ
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今朝、雷で目が覚めました
神社やお寺、教会などを軸に、祈りについて学びながら心の平穏を探します。このブログをきっかけに、世の中の事物にも目を向けられたらと思います。晴れた一日になりますように。
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