お寺の五色の幕
日本のお寺と言えば、ご本尊様がきらびやかな以外、全体的には質素なイメージです。
でもときどき、門のところにカラフルな布を掲げてあったりするのを見たことがありませんか?
あの目立つ布は何なのか、この記事はお寺の五色の布についてとりあげます。
五色・読み方
五色は「ごしき」と読みます。
「ごしょく」でもいいですが、それですと「よんしょく」も「ろくしょく」もありそうですから、「選ばれた色の特別なワンセット」として「ごしき」のほうがふさわしい読み方です。
「ごしき」はとにかく五つセットになった色の組み合わせのことで、その組み合わせに絶対の決まりはありません。
また、五つよりもっと多くの色が集まった美しさを称賛して、「ごしき」と言う場合もあります。
いずれにしても、「ごしょく」は色の数が5個だという状況を示すのに対して、「ごしき」は、色の集まりに対する賞賛のニュアンスがあります。
仏教の五色
日本のお寺でよく使われる五色は以下の五つです。
青、黄、赤、白、黒
青は緑になっていたり、黒は群青色かオレンジ色のようになっていたりします。
伝統では黒が入っているのに、じっさいには黒が外されていることが多いのは、黒色に対する考え方の違いによるものです。
黒は「荘厳さ」や「律する精神」を表す色です。
黒こそ修行にも儀式にもふさわしい、むしろここは黒でなければと思う場面は、宗教にかかわらず普段の暮らしでもあるでしょう。
その一方で黒は仏教で「煩悩」や「無知」を象徴することがあります。
清浄な仏さまの悟り、教えとは正反対になってしまうので、お寺の儀式で黒を使うのはふさわしくないと感じるかもしれません。
ですから五色のなかで、黒がすっかり他の色に変わっていることがよくあります。
紫(群青色)に変わる場合は、この色自体がもともと仏教で、荘厳で深みや悟りを表す、黒に近い色として扱われてきたからです。
また、染料の関係もあったそうです。
オレンジ色は、仏教では仏さまの教えの色、その教えにささげられた色とされます。
東南アジアの僧侶の袈裟は、この色です。
青が緑に変わるのは、昔から日本では青と緑をはっきりわけて考えていなかったことと、生命力、成長をイメージするものとして、青より緑が日本の色彩感覚で適しているように感じたからかもしれません。
ですので、日本の五色は言葉では「青、黄、赤、白、黒」と言っても、じっさいに目に映る感覚から言えば「緑、黄、赤、白、群青色」が多くなっていますし、また違う配色のこともあります。
仏教の五色・色の意味
何色がどんな意味をもつのか、おなじ仏教国でも国や地域によって異なります。
五色の由来とされるのは、「五大」に表される仏教の宇宙観、あるいは「五智」と呼ばれる仏さまの五つの知恵ですが、五大は世界をつくるパーツですし、五智は仏教の精神性です。
もともと完全に同じではない要素に、色を割り振っても、同じにはなりません。
また中国では古くから「五行」という考えがあって、五行にも色が割り当てられていたので、中国仏教の色彩はこの影響を受けています。
日本は中国と関係がとても深いので、これもまた五行の影響を強くうけています。
さらに同じ日本でも、宗派によって何色が何の意味かはちがった解釈をするので、やはり色の意味を簡単に説明することはできません。
色の意味をはっきり決めて、厳格な決まりで五色をつかう宗派もあります。
逆に、そもそもひとつひとつの色にこだわらない宗派も存在します。
ですから単色ずつの意味をおぼえるのは、なかなか労が要ります。
五色を見る時に心に受け止めたいのは、これらの色が示す互いの関り、バランス、調和なのではないかと思われます。
いわゆる、「ご縁」「縁起」を仏教の五色は示しているのではないでしょうか。
仏教の五色・いつ使う?
お寺で法要や儀式など、何か催しがある時には、よく五色の布が使われます。
五色の幡(旗・はた)や幕には、仏さまの五つの知恵や慈悲などが表されていて、人びとの感謝と供養の心も込められています。
経文を五色で書き分けることもあります。
これは、仏さまの教えが五つの智恵を通じて広まることを表していて、読経することで五智を得るとされているためです。
涅槃会(ねはんえ)は、お釈迦様が入滅した日を記念する法要です。
この際に寺院に掲げられる五色の幡は、お釈迦様の智慧と教えが世界中に広まることを象徴しています。
お寺の仏像や本尊の装飾にも五色が取り入れられています。
仏像のうしろにある光背や、仏像にかけられる布に五色が使われ、仏さまの五つの智恵を表しています。
四天王は、仏法を守り、四方を守護する四人の神さまです。
東方を守る持国天は青、西方の広目天は白、南方の増長天は赤、北方の多聞天は緑に関連しています。
五色として黄色が欠けているようですが、黄色、または黄金色は中央のお釈迦様です。
これらの色は五智や五大と対応し、仏教の宇宙観を象徴しています。
他にも五重塔、僧侶が座る座具(ざぐ)や法具、紐など五色が取り入れられている例は数多くあります。
五色を使う場面や理由、配色は、どのお寺でも同じではありません。
同じ宗派でも、伝統的にまちまちの使い方をしています。
五色に彩られたものを使うのは、宗派によって儀式のためであったり、仏さまの教えの象徴であったり、あるいはあえて言えば飾りのためであったりします。
でもそれが装飾であっても、五色を使うという事は、やはり仏さまの教えを視覚的に表現しているということになります。
仏教旗の五色
スリランカでデザインされた、仏教旗というものがあります。
現在では世界中の仏教徒が使用している旗で、五色は「青、黄、赤、白、橙」の組み合わせになっています。
これらの色は、仏陀が悟りを開いた際に放った光の五つの色を象徴するとされています。
黄色に加えて、オレンジ色が入っているのが特徴的です。
五色の幕の裏表
五色の幕は、どっちが表でどっちが裏なのでしょうか。
色の順番は、青、黄、赤、白、黒でした。
見た感じは、緑、黄、赤、白、群青色になるはずです。
左からこの順番に見える方が色の並び順としてあっているようですが、いろいろなお寺を見ていると、お寺ごとに違う張り方をしているようです。
山門の外から見て「緑、黄、赤、白、群青色」のところもあれば、その逆もあります。
本堂をぐるりと巻くようにしたものも、左右で逆のお寺があります。
参道を中心に左右対称に張っているお寺もあります。
縫い目や織りを見れば、その幕や旗には商品としての裏表があるはずですが、縫い目より色の並びが重要度が高いはずです。
五色の幕は、地域、宗派、お寺の伝統でそれぞれの張り方が存在していて、それぞれの決まりがあるようです。
五色の幕、張り方の提案
ここまで五色についていろいろ学びました。
しかし奥が大変深く、その由来から色の意味まで、簡潔に説明することができませんでした。
これではなんだか残念なので、最後にこの学びで感じたことから、裏表のよくわからない五色の幕に関して、張り方の提案をしたいと思います。
張り方の提案1:放たれる光
仏教旗では、五色は仏陀が悟りを開いた際に放った光の五つの色を象徴しています。
また、五色は仏教哲学における悟りの内面的な五つの智慧にもあてられています。
このように考えた時、五色の幕はすべて内表に、ご本尊さまを中心にして張るのがしっくりする気がします。
寺院の中心であるご本尊さまや、経文などから光が放たれていて、その光が寺院からあふれ出しているように、裏面を山門の外へ向けているのはなかなか素敵です。
その結果、山門の外からは透けだした光をみるので、順番は左から「群青、白、赤、黄、緑」です。
山門をくぐれば、後ろの山門に張られた幕の五色の順番は「緑、黄、赤、白、群青色」と、よく言われる五色の通常の並びになります。
でもそこから本堂に張られた幕を見れば、また「群青、白、赤、黄、緑」と逆向きです。
本堂の中に入り、ご本尊様の近くに行けば行くほど発光源に近づきますから、本堂の中で見る布は表向き「緑、黄、赤、白、群青色」の順番。
でもその時にはもう、その光に包まれているので、色を別に眺めると言うより、自分自身が調和の中に入るというしかけです。
さらに、仏教では東西南北とまん中を大事にしますから、中表に張れば中央がはっきりして、自然な気がします。
張り方の提案2: 仏さまは全ての場所に
仏教で山門の外にいる人たちは、迷いの中にいる人たちです。
僧侶はこの人たちを導き、仏さまの教えをつたえることが修行になっています。
でも、仏教では「仏はすべての場所に存在する」と考えます。
つまり、山門の外側にも仏さまの慈悲や教えはすでに届いていて、その存在はどこからも消えることはないのです。
こう考えると、五色の幕には裏も表もないのかも知れません。
仏さまは山門の中、そして山門も外にもすでに存在していて、その慈悲にすべてが既に包まれている、これもまたなんと素敵でしょう。
ですので、山門の外に向けてうつくしい表を掲げ、あまねく満ちる光を表現するのも、大変良い気がします。
さらに、宇宙の調和、秩序、悟りへの道を象徴するために、左右対称のお寺の前に、五色の布を左右対称に張るのも良い気がします。
お寺の五色の幕・まとめ
日本の仏教における五色は、単なる色彩を超えて、仏教の哲学や宇宙観、修行の象徴として深い意味をもっています。
その由来や色に対応する象徴的な意味は、地域や宗派によって異なる部分も多く、研究の余地が残されています。
それでも、五色という概念が伝えるメッセージは、世界の“調和”を表していると言えるでしょう。
みなさんも寺院に参拝する時は、そこにどんな五色があるか、どの向きで設置されているか見てみてはいかがでしょうか。
そしてもし自分が決めるなら、どんな風に五色の幕をはためかせてみたいか、どんな風に五色を使ってみたいか、自由に考えてみるのも面白いかもしれません。
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