祭祀継承、二つの条件

―お墓を継ぐか、継がないか。迷っていませんか?―
その迷いの原因の多くは、やはり「お金」ではないでしょうか。
また、「墓じまい」という言葉が頭をよぎり、
「自分が継いでも、いずれは子どもがいないから終わらせるしかない」と思い悩む方も多いことでしょう。
この記事では、お墓をどうするかという問題に決断を下すための、二つのシンプルな条件をご提案します。
その前に、まず「祭祀継承」とは何かを簡単に整理しましょう。
祭祀継承とは
「祭祀(さいし)」とは、ご先祖さまを祀ること。
「祭祀継承者」とは、その役割を引き継ぐ人を指します。
民法第897条では、お墓や位牌などの祭祀財産は、慣習に従って継承されるとされています。
そして近年の解釈では、長男や血縁に限らず、遺言などで指定すれば他人でも継承可能とされています。
つまり「誰が継ぐか」や「継げるか」は、法律よりも、資金などの現実的な準備と人間同士の関係性の中で決まっているのです。
お墓を継ぐかどうか、判断の為の二つの条件
条件1:今、400万円の用意があるか

400万円というのは、仮にある人がお墓を継ぎ、二人の親を見送り、25年間お墓を守り続けた場合にかかる概算費用です。もちろんその方の選ぶ供養の形態で、最終的にかかる額は大きく変動しますが、ここでは以下のように想定しました。
通夜・葬儀・火葬:中程度の家族葬(15名程度)
法要:初七日〜七回忌、以降13回忌まで行う(七回忌以降は二親まとめて実施)
お布施、御車代、会食費なども含む
年間の管理費も加算済み(仮に1.2万円×25年=30万円)
総額:約410万円(25年間)
月に換算すれば、約13,600円の積み立てイメージです。
大事な点:これは「無駄をなるべく省きつつも、最低限の体面を守る」費用です。
極端な簡略化も、高額な見栄えも求めていない現実的な中間ラインとして計算しました。
台風で思いがけず墓石が倒れたり、新しい式服を買ったりと、そのような出費は入れてありません。また、本堂修復に100万の寄付を求められた、などというものも入っていません。
条件2:自分の後に、更に継承者として任せられる人が見つかる見込みがあるか
「今自分が頑張ってお墓を守っても、けっきょく自分が亡くなった後には誰も継がない」
それでは意味がない……そう感じるのは自然なことです。
しかし、祭祀継承者は──
- ・長男に限らず、娘でも次男でも可能
・実子でなくても、他人でも可能
・養子縁組がなくても、遺言で指定すればOKなのです。
実際、かつては養女や信頼できる誰かが、お墓を引き継ぐケースは少なくありませんでした。
あなたに今、お子さんがいなくても、
「この人なら祈りを託せる」と思える若い人にいつか巡り会えるかもしれません。

それを不確定だからと即断せず、「可能性があるかどうか」で判断してよいのです。
お寺とお布施の誤解を解く:なぜ100万円の寄付があるのか?

お墓を継ぐ際、気になるのが不意の出費。
なかでも「本堂修復の寄付」などが、不安材料としてあげられることがあります。
確かに数十万円〜100万円といった寄付が話題に上がると、
「怖い」と思うのも当然です。
日常生活で、何の高額な買い物をした覚えもないのに、いきなりよその人から「100万円出してください」と言われることなんてありませんから。
ですがここで、お寺の成り立ちを少し知ると、見方が変わるかもしれません。
檀家とは「お寺を支える共同体」
もともと僧侶は、放浪しながら修行する身でした。
地元の檀家が自分たちの寺にその僧侶を招き、地域のお寺を守る住職として迎え入れたのです。
つまり、「お寺は檀家のための場所」であり、
「住職は檀家の上司でも召使でもない」、信仰と修行の道に立つ者です。
僧侶には僧侶の、衆生救済という使命があります。
読経や法要に対するお布施は、代金ではなく、寺にとどまってくれる僧侶への感謝の気持ち。
寄付やお布施には、お寺という精神的な居場所を、そこにいてくれる僧侶の生活費も含めて、自分たちで支える「共同出資」のような側面があるのです。
最近では、管理費の安い霊園やネットで依頼できる読経サービスなども登場しています。
それらには確かに費用的なメリットがありますが、中には僧侶としての正式な修行や認定を受けていない方が対応していることもあり、菩提寺との違いは意識しておいてもよいかもしれません。
費用の多寡だけでなく、心の支えとなり教えを示してくれる人がいるかどうか──
そこに目を向けることも、祭祀継承を考える上では大切な視点かもしれません。
祭祀継承:第三の条件

さて、最初に「二つの条件」と言いましたが、
最後にこっそり、「第三の条件」をご紹介します。
それは、あなたがこの記事をここまで読んでくださっていることです。
お金に不安がある。
子どももいない。
墓じまいという言葉が気になる。
でも、迷っている。
決して軽々しく「終わらせよう」と思えない。
それは、あなたの中に「祈りを大切にする心」がある証拠です。
誰かを想い、忘れずにいる。
その祈りを、形にしたいと願っている。
あなたには、きっと祭祀を継ぐ資格があるのです。
400万円の使い道を、どう考えるか?
ここまで、お墓を継ぐとおよそ400万円程がかかることがわかりました。
この金額はあなたの所有している車の維持費としてなら、約10年分です。
このところ高値が続くリンゴを買うとしても、これだけあれば30年近く毎日買うことができるでしょう。

なぜ急に車やリンゴの話になったの?
ここであなたの心に問いかけてみてもらいたいのです。
もしも今、手もとに400万あったなら、どうしますか?
これを将来お墓の維持にあてるために引き出しの中にしまい込み、やがて亡くなった人のために使いますか?
それともこのお金で車を維持し、今度の休日は親が行きたいと言っていた故郷に連れていってあげたり、家族の好物のリンゴを、少々値が張っても籠にいっぱい買ってあげたりと、
いますぐ、その人の笑顔のために使ってあげますか──

あなたはきっと将来もリンゴをお供えし、かつてそれを好んでいた人を偲ぶでしょう。
でも今なら本人に、心ゆくまでのプレゼントができるはずです。
400万円をどのように使うかに、もちろん正解はありません。
どちらが良いとは言えないのです。
ただこの問いに心がどう動くかというのは、費用に悩むあなたが、お墓を継承するのか、或いはもっと他の選択肢をとるかの、ひとつの判断基準になるかもしれません。
まとめ:あなた次第の選択
お墓を継ぐには、以下の二つがカギです。
・おおよそ400万円の用意ができるか
・他人でもいいので、将来的に継承を任せられる人がいそうか
どちらも、絶対ではなく可能性の話です。
完璧な未来設計がなくても、祭祀を継承し、お墓を守るという道を選ぶことはできます。
でももし違う選択をするなら、その選択肢はたくさんあり、無理のない予算でちょうどいいものが見つかるでしょう。
あとは、心にそっと問いかけてみてください。
あなたとあなたの大切な人たちにとって、悔いのない選択ができますように。
補足資料
文化庁「宗教年鑑」
e-Gov 法令検索
民法第897条
1 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
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